定跡書の読み方
棋書にはたくさんの種類がありますね。
エッセイや小説のようなライトなものを除けば、大型書店の将棋コーナーに行ってもどれを読んでいいのかよくわからないことが多いと思います。
今回はテーマを定跡書(手筋のような部分でなく、盤面全体を使って序盤の理論を解説する本)に絞って読み方、活用法を見てみましょう。
一応の設定として、あなたは最近になってあらたに四間飛車を始めてみた5級のひととします。昨日友人と指して居飛車穴熊を攻略できずに負けてしまいました。
さて、定跡書は大きく分けると以下の4種類になります。
【定跡書の種類】
1.定跡俯瞰型
2.理想手順型
3.真理探究型
4.次の一手型
1.定跡俯瞰型は、定跡の仕組みや成り立ちを、具体的な手順とともに概観する本を指します。まず、定跡全体を語った本の具体例としては勝又清和『最新戦法の話』(浅川書房)や上野裕和『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』(マイナビ)、深浦康市『これが最前線だ!』(河出書房新社)などがあげられるでしょう。
つづいて個別戦法について語った本としては藤井猛『四間飛車の急所(1)』(浅川書房)が筆頭でしょうか。また、非常に専門性の高い本でありながらも、ひとつの戦法を将棋界のタイトル戦の流れの中でひとつの物語のようにとらえる村山慈明『矢倉5三銀右急戦』(浅川書房)などもこの分野に分類できるでしょう。こういった本は定跡というものをなるべく将棋の初期配置に近い段階から検討し、理解するのに役に立ちます。
オールラウンダーの強い方はこうした本をしっかり理解して知識を整理されている印象がありますね。
つづいて2.理想手順型の棋書は、理想化された攻め手順を紹介することでひとつの戦法の特長をつかもうという趣旨の本といえるでしょう。執筆の手法としては、自分(先手側)が最善を尽くす一方で相手(後手側)が非常に素直な指し手で応じ、結果として自分が相手を攻めつぶすという形が多いようです。
相手が最善をつくしていないというと印象が良くないですが、その戦法をあたらしく学び始めた初心者・級位者にとっては、ノイズの取れたわかりやすいバイブルになります。
ぱっと思い浮かぶ名著として、森下卓『初段に勝つ矢倉戦法』(創元社)や藤井猛『四間飛車を指しこなす本(1)~(3)』(河出書房新社)があります。
こうした本は、大会前などに復習することで自分か勝つイメージを具体的な手順とともに植え付けることができるので、メンタル的にも有用と思います。いま挙げた本のほかにも、鈴木大介九段(パワー中飛車で有名)や泉正樹八段(野獣流ですね)による著作は、読んでいて元気が出る気がします(余談ですが、文体的には大石直嗣七段の本も元気があって楽しいです)。
3番目に紹介するのは3.真理追求型の定跡書。各戦法のスペシャリストの棋士(およびアマチュア棋士)が腕によりをかけて紡ぎだした研究手順が載っている本のことです。ここに分類される本は枚挙にいとまがありません。また、ものによってはプロ棋士や奨励会員も参考にするほどのものも出版されてきています(運が良ければ将棋会館の売店で棋書を買うプロ棋士の姿が見れるかも...?)。
この分野では、ぱっと思いつくだけで森内俊之『矢倉の急所(1)(2)』(浅川書房)、島朗『島ノート』(講談社)、渡辺明『四間飛車破り』(浅川書房)、広瀬章人『振り飛車穴熊の最終進化』(日本将棋連盟)などがあります。たぶんもう一回思い出せと言われたらぜんぜん別の本を思い出すことでしょう笑 羽生善治『羽生の頭脳』も外せませんね。
個人的にここ数年で気に入った研究書は、上村亘『居飛車VS振り飛車の重要テーマ』(マイナビ)、石井健太郎『四間飛車の逆襲』(マイナビ)、高見泰地『中飛車破り一直線穴熊』(マイナビ)です。挙げていけば他にもあるのですが、最新定跡書の悲哀で数年たつと情報が最新でなくなるという運命がありますよね。この運命に抗って名を残す研究書は本当に古典になると思います。
最後に紹介するジャンルには、4.次の一手型という名前を付けました。
先ほど紹介した『四間飛車を指しこなす本』などはこの分類にも入るのですが、ここでは2種類の「戸辺本」を紹介しておきましょう。
まずは戸辺誠『石田流を指しこなす本』シリーズ(浅川書房)です。急戦編、持久戦編と相振り飛車編の3部からなり、すべて次の一手を通して定跡に精通しようという趣旨の本。級位者から初段が主な対象ですが、高段者が読んでも勉強になる手筋と考え方が満載です。
つづいて同じく戸辺先生の『攻めて強くなる戸辺流中飛車』(ルーク)も代表的な次の一手定跡本です。本書は解説DVD付きという画期的な試みで、同じ出版社から最近出された浦野真彦『詰手筋DVDブック』もDVD付き。1ページにつき1手のゆっくりペースの解説にDVDでの映像解説がつけば、「局面が追い切れない!」というお悩みとおさらばできそうですね。
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以上、出版社によっても傾向があるのですが、誤解を恐れずにおおまかな特徴づけをするのであれば、以下のようになると思います。(あくまで私の理解です)
2.理想手順型・・・創元社
3.真理探究型・・・マイナビ出版
ということで、四間飛車をはじめた5級のあなたは『四間飛車の急所1』で戦法の歴史を概観し、『四間飛車を指しこなす本』で勝利への道筋をつかみ、『四間飛車の逆襲』で居飛車穴熊対策を講じるということになりました、めでたしめでたし。
この「あなた」の四間飛車サクセスストーリーはまた今度。
※ちなみに級位者のかたの居飛車穴熊対策には、『四間飛車の逆襲』に代えて井出隼平『四間飛車序盤の指し方』(マイナビ)がおすすめです。
四間飛車のDVDブックは残念ながらまだこの世に存在しないです笑
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さて今日は『りゅうおうのおしごと!』を買って帰りましょ~♪