【棋譜紹介】将棋で表現する
ルールという縛りの中でなにかを表現することは難しいです。
10マス×10マスのドット絵で人を感動させる絵を描けと言われたら困ってしまいますが、もしそれができる人がいたらその技術の価値はとても高いでしょう。
紙と鉛筆を渡されて、極めて精巧で写実的なリンゴを描けば、写真よりも感動されることでしょう(もちろん写真で人を感動させる人もいる)。
私自身としては、いっときは将棋はドット絵であって、将棋盤も狭いものだと考えていた時期もありました。しかし今では将棋盤は無限の宇宙に見えています。それはコンピューター将棋と藤井聡太七段の棋譜を目の当たりにしたのが大きいです。
そんな話は置いといて、棋譜を2つ紹介します。
1.▲羽生善治竜王名人-△中原誠永世十段(王将リーグ、1995年12月)
横歩取りの名局です。△54飛は中原流の趣向。普通は誰が指しても△62銀なんですがねえ...。誰が考えてもAというところでBと言えるのはすごいし、それで勝てばなおさらです。
図以下
▲48銀 △74歩 ▲33角成 △同桂
▲77桂 △94歩 ▲96歩 △73桂
▲68銀 で次図。
先手としてはきわめて自然な駒組みなのですが、9筋の交換がやや不気味。そんな予感はだいたい...
△95歩 ▲同歩 △62銀
なんだかよくわからない手の組み合わせ。8筋ががら空きですが...。
▲82角(32分)
上図以下...
△28歩 ▲同飛(35分)△75歩 ▲26飛
△98歩 ▲同香 △74飛 ▲75歩
△同飛 で次の図へ。
すべての手が関連しあって美しい手順です。
△75同飛に▲76歩だと△25飛で飛車交換が必然に。
以下△99飛が早すぎて先手勝てません。
このとき△89飛だと▲79飛で受かることを見越してちゃんと△98歩を入れてあるのが細やかな職人芸。
上図以下、▲91角成△76歩で桂香交換に持ち込んでしまいました。先手は9一の馬がボケてしまっては不満。中原先生の横歩取りを象徴する名局です。
2.▲増田康宏六段-△佐々木大地四段(AbemaTVトーナメント、2018年7月)
もう一局は最近見た将棋から。アベマの人気番組でも名局が数々生まれています。
相掛かりの中盤戦で、先手が仕掛けました。
△75歩 ▲同歩 △88角成 ▲同銀
△35歩 ▲同飛 △24飛 ▲25歩
△84飛 ▲34歩
と、先手は攻めの形を作ります。
二人は先後逆を持って、順位戦の将棋を指しているとの解説がありました。
以下、
△42銀 ▲66角 △33歩 ▲同歩成
△同銀 ▲45桂 △34銀 ▲39飛
△33歩
と、後手はあくまで丁寧に先手の攻めに応対します。
ここからは後手の反撃です。
図から▲77桂に対し...
△44歩 ▲53桂成 △同玉 ▲65桂
△42玉 ▲73桂不成 △同桂 ▲58玉
△31玉
丁寧に先手の攻めを摘み取り、最後の△31玉が落ち着いた決め手。
超早指しとはいえ局面の主題に合った、本筋の負けない手です。
以下は難しいところもあったものの後手の佐々木四段が手堅くまとめました。
放送を見逃した方はぜひAbemaTVの将棋チャンネルにて見逃し放送をご覧ください!
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やはりいい将棋は感動するなあ。
思い出の本
初心って大事ですよね。いつも新鮮な気持ちで将棋を見れるようにありたいものです。
私自身、将棋を覚えてから20年弱は経つこともありいろいろな将棋や棋書を見てきましたが、やはり子供の頃に読んでいた本は思い入れが深く、いま読み返してみても結構内容を覚えているものです。
1.前田祐司『将棋(わくわくチャレンジ・ブックス)』フレーベル館、1998年
私は小学校低学年で将棋を始めたのですが、なぜか入門書は大量に読んだ記憶があります。対局相手がいなかったからかもしれません。
中原先生のものや伊藤果先生の入門書などは学校からの行き帰りや寝る前の寝床で読み返しました。『どんどん力がつく こども将棋 強くなる指し方入門』(中原)はいまでも書店で見かけることがありますね。
前田先生の本書も子どもに読みやすい好著でした。絶版なのですがもし見つけたら読んでみてください。当時の藤田綾女流二段や藤森哲也五段の姿もあります。
前田先生といえば山海堂から出ていた『将棋必死集』も印象的。
小学生って暇ですし、無意識のうちに何周も読んでいたのですね。ちなみに山海堂は数年前に倒産してしまいました。次の一手本など名著が多かっただけに残念。
2.原田泰夫『強くなる将棋・次の一手(将棋シリーズ)』梧桐書院、1999年
こちらは次の一手本。奇をてらわぬ内容で、級位者に読みやすかったです。構成は指導棋士の小田切秀人先生(棋友館などで指導)で、ご縁を感じます。
今にして思えばよくこのレベルを(5級以下?で)読んでいたなと思いますが、内容がわからなくても漢字が読めなくてもひたすら図面を追って、解答も暗記していました。この時期の反復練習がいまの直感の基礎感覚になっているのかもしれません。
他には学校の水泳大会が始まる前にストレッチもせず『四間飛車を指しこなす本(3)』を読んでいた記憶がなぜか残っています。そのときに先生か誰かから「読書をしてえらい」と褒められたのですが、棋書は読書じゃないよねと思っていた天の邪鬼でした。
級位者時代は詰将棋が好きでよくやっていました。ハンドブックシリーズなんていうおしゃれなものはなかったですが、目についた作品集を手当たり次第に解いていました。
お気に入りはこの選集シリーズ。ほかに内藤先生や高柳先生、後年になって勝浦先生の作品集も出版されました。もちろん、解けない問題がほとんどだったので答えもバンバン見ていました。この頃は棋書とたわむれるのが好きだったのかもしれません。
中学校に入った頃、浅川書房の刊行が活発化し、私も棋理というものに目覚めます。
時代としては四間飛車対急戦がまだ主流で、羽生森内の竜王戦なんかはいまでも有名でしょう。
浅川書房の本は中学生ながら全部買い求めました笑。とくに『四間飛車の急所』(藤井)、『最新戦法の話』(勝又清和)、『上達するヒント』(羽生)などが今の私の将棋観を作っている気がします。序盤というものが必然手の組み合わせによる理路整然とした体系という見方を手に入れました。
他に定跡書では...
これですね。四間飛車対急戦の最後のピークという時代でした。
電車の中でよく読んでいました。▲39飛に感動。
青野先生の著作は読み物でも手筋物でも非常に啓蒙的で、勉強になりました。
最近だと創元社から出た『棋力判定テスト』ですか。あれをちゃんとやればすぐ強くなると思います。
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久々の自分語りになりました。
また別の切り口があればもう一回くらい書いてもいいかな。
ノーマル三間飛車を指しこなすブックガイド(定跡書編)
ノーマル三間飛車っていいですよね。
石田流もいちおう三間飛車のくくりには入るのですが、角道を止めずに堂々と指す感じがあっけらかんとしていて、遠慮がない感じが個人的には馴染めません。
また、いわゆるトマホーク戦法や三間飛車・藤井システムもいちおう三間飛車ですが、このへんになるともう7筋が単に飛車の仮置き場という感じがして、これもなんだか違うなあという感じ。
どちらかといえばノーマル四間飛車のほうが思想としては近いと思います。
ただこの辺の感覚は職人の方が多いのでなんとも断言しづらいですね。
うまく表現できないのですが、いいタイミングで▲74歩△同歩▲同飛とさばくとか、うまく▲65歩と突いて角交換でさばく、あいての角で自分の飛車を取ってもらう、▲77桂を▲65桂と使うなどなど...
ノマ三には上達のエッセンスと将棋の魅力がたくさん詰まっています。
さてそしてブックガイド。
※6/7追記)大平武洋『これだけで勝てる三間飛車のコツ』を入れるのを忘れてました。これは急戦から持久戦まですべての基礎を盛り込んだ名著で、ノータイムで★★★です。
☆☆
三間飛車対居飛車急戦の基本的な筋が紹介されています。また、4三銀型対居飛車穴熊そして5三銀型対居飛車穴熊の模範的進行も計20ページほどかけて紹介してあります。
この他、ゴキゲン中飛車や石田流の狙い筋も書いてあるので持っていて損はないと思います。
2.中田功『コーヤン流三間飛車の極意 急戦編・持久戦編』(マイナビ)
☆☆☆
ノーマル三間飛車の5三銀型に関する対急戦・対持久戦の基本をすべて抑えた、まさにバイブルと呼ぶのにふさわしい内容。最近マイナビからプレミアムブックスとして復刊されたので、これを期に是非読んでみてください(ダイマ)。
3.藤倉勇樹『振り飛車の核心 さばきの基本手筋』(マイナビ)
☆☆☆
すべての角道を止める振り飛車に共通するさばきの概念を、次の一手形式で級位者にわかり易く解説した名著。個人的には今年度のベストバウトのうちの1冊です。
☆☆
コーヤン流の2冊分の内容をキュッと1冊にしぼったような内容構成で、むだなくノマ三の指し方を吸収できます。
☆
こちらは打って変わって、4三銀型を駆使して居飛車穴熊を倒そうという内容。
コーヤン流の要諦が端攻めなら、こちらは玉頭銀。初段まででしたら最強戦法になってもおかしくありません。
☆
この辺は王道過ぎてコメント不要ですかね。急戦から左美濃などの持久戦まで、やや分量に不満はありますが、当時としては画期的な研究だったのでしょうね。
☆☆
こちらは読み物。絶版のためすこしプレミア価がついてしまっているのですが、面白いです。
『振り飛車党列伝』湯川博士
— みずたま (@go_tom_89) January 8, 2018
2005年発行。『振り飛車ワールド』(紹介済)に連載されたインタビューをまとめたもの。久保八段や中田功七段などの中堅はもちろんのこと、加瀬純一六段や飯野健二七段、真部一男八段(段位は当時)といったベテランも収録。昭和の将棋界のエピソードが満載。#今日の棋書 pic.twitter.com/n6GWp7TGhr
☆
『振り飛車党宣言!(1〜4巻)』
— みずたま (@go_tom_89) February 3, 2018
1993年発行。小倉五段、杉本昌四段、藤井猛四段、中田功五段ら(当時)の当時の最新研究と実戦譜を集めた定跡書。ノーマル四間対急戦・居飛車穴熊・左美濃や、三間飛車対持久戦の主要な変化を押さえており、今日でも基礎知識として役に立つ。文庫版も絶版。#今日の棋書 pic.twitter.com/4c1PqfIRqX
☆☆☆
これ↓の四間飛車以外の振り飛車版。さばくという概念の導入編として。
『ホントに勝てる穴熊』先崎学
— みずたま (@go_tom_89) September 24, 2017
現代将棋の根幹をなす穴熊は確かに勝ちやすいのですが、組むまでの手順やそこからの仕掛けには確かな戦術理解と技術が要求されます。例えばなぜ最近の居飛穴が67金型なのか、考えたことはありますか?
初段を目指す穴熊党への支えとなる不朽の名作。#今日の棋書 pic.twitter.com/6Wn6yGfOaT
☆
東大将棋シリーズは手順の羅列が多くて有段者向けということもあり、あまり級位者のかたにはおすすめしていないのですが、△43銀型の定跡書があまりに少ないのでランクイン。ちなみにトマホーク戦法などをあつかった『三間飛車新時代』(小倉・山本)や、西川和宏『西川流振り飛車 居飛車穴熊破り』などもあるのですが、マニアックなので詳述はしません(要望があれば別)。
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棋譜並べ編はまたこんど。
社団戦1日目
いてはりました。
将棋用品展示館になってるのは会場を借りる建前上のことで、実際は普通の将棋大会です。
社会人リーグの名の通り、将棋教室や職場、将棋部などの共通項を持つ仲良しが集まって7人の団体戦を半年にわたって戦います。
今期は1~6部リーグに加えて7部リーグができました。
さすがの将棋人気ですね。女性の参加がぐっと増えたのはとても嬉しかったです。
私は午後からふらっと行って、知り合いの将棋を眺めたり、物販コーナーで小学生たちと1手詰ハンドブック早解きをやったりしてまったり過ごしました。
やっぱり子どもたちは純粋でいいですね。
また、やさしくもお声をかけていただいた皆さまありがとうございました。
ようやく顔とツイッター名が一致した方が何人かいて嬉しかったです。
他には日本女子プロ将棋協会 | LPSAやアカシヤ書店、ねこまどなどの物販コーナーもあり、大賑わいでした。LPSAは南三陸布盤駒袋セット が個人的に一押し商品。アカシヤさんは社団戦限定で、将棋雑誌の付録を1冊100円で売っています。ねこまどのショウギクロックは超軽量かつお手頃価格でおすすめです。
さて今日の戦果。
原田先生の名著(1000円)。
ペンクラブの過去の会報は1冊100円。
もはや将棋を指しにいってない感がありますね笑
どこか、メンバーが慢性的に足りていないチームがあったら声かけてもらえれば加入を検討させていただきます笑
とりあえず今は、将棋世界2001年1月号付録「香落ち最前線Part2」(飯島栄治四段)という秘蔵の書を呼んで勉強したいと思います。
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☆宣伝☆
みずたまのほしいものリスト
将棋ルーム@四ツ谷ねこまどのご案内
行ったとこ、買った本
今週も一週間お疲れ様でした。
私は土日オフなのですが、日曜には社団戦に出られる方も多いことでしょう。
私の周りには、今回初めて出られる方が多い印象です。
東アマ連のサイト(東京アマチュア将棋連盟)をよく確認してご参戦ください。
力を出し切れますように!私も行けたら行きます!
さて、今日の夜はここを見てきました。久しぶりの古本市。
会期は明日まで!
45分ほどあったので、まずはざっと一周歩きましたが、最初は棋書は見つからず。
とはいえ、あきらめずに探すと2周目でようやく棋書コーナーを発見。
今回はこれともう一箇所だけでした。
全体的にも棋書が少なくすこし残念。釣果もなしでした。
この画像にも1冊囲碁の本が写っています。
さすがに棋書紹介ゼロでは申し訳ないので、最近買った本をご紹介。
これを買うのは2回目。いい本は人にあげたり大学将棋部の本棚に寄付したりしているので、こういうことが起こります(フィランソロピー?CSR?)。
とはいえこれでようやく名局集シリーズをすべて揃えることができました。
皆さまのおかげです、ありがとうございます。
(参考)
このシリーズですね。大山、升田、米長、中原、勝浦、石田、加藤一、大内があります。
また、1980年前後に筑摩書房から出た名局集シリーズ10冊もなんとか揃いました。
木村義雄全集、升田将棋選集、大山康晴全集、谷川浩司全集、羽生善治全局集、藤井聡太全局集、戦型別名局集、名人戦全集...
全部並べきるには人生が7の7乗回は必要です。
一度、回を改めてこれらについて書いてみたいですね。
他には、囲碁の本も数冊。
囲碁の妙手を集めた本。
1手の価値を最大限に高める本。
格言を実戦に活かす本。
これら3冊で1000円でした。
日本棋院の本ってなぜかわからないですが教科書的ながら読む人を惹きつける何かをもってますよねー。
知識を体系化するのが個人的に一生のテーマだと思っているので、囲碁の本がどう編集されているのかには非常に興味があります。
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社団戦ではアカシヤ書店さんが普段とは別の在庫を出されるのでお見逃しなく!
基本に立ち返る
最近はコンピューターをはじめとしていろんな勉強法がありますが、やっぱりいつの時代にも通じる王道の手法ってありますよね。
昭和の奨励会の厳しさを語る逸話に、「昔は棋譜一つ手に入れるにも連盟に出向いて印刷する必要があった」というものがあります。もう少し時代を遡ると棋譜は手書きで…となります。
手元をカチャカチャすれば簡単に棋譜が手に入るこの時代にこのエピソードはもはや過去の遺産です。しかしまた、コンピューターの画面上で棋譜を眺めて並べたとするのも、個人的にはなにか足りないと感じています。このへんは育ってきた環境が違うから〜♪の世界でしょうけれど。
さて、誰にでも伸び悩む時期はあります。
私自身の経験を話せば、こうした悩みは基本をおさらいすることで解消されることが多い気がしています。すなわち、「自分が今何をわかっていて何をわかっていないのか」を認識すること。そのことで、いま行っている努力と自分が期待している棋力がいかにかけ離れているかを冷静に観察することができます。
多くの場合、期待は実情を上回っているのではないでしょうか。また、過去の対戦成績などの実績にすがっていると足を掬われます。
まとめると、現状を客観視して必要な手段を講じること。手段の中には年下の高段者に教えを乞うなど、つらいことがあるかもしれません。
しかし、こうした態度を取れる人はえてしてかっこいいです。私自身、『不運のすすめ』(米長邦雄、角川)で紹介されていた中原誠先生の将棋に真摯な態度に感銘を受けました。
先ごろ発売された『奨励会』(橋本長道、マイナビ)にも若くて強い人にまつわるエピソードがありました。
技術的なことを言えば、自分の棋力より少し下かな、という本や問題集を読むといいと思います。三段の壁で伸び悩んでいるならば、7手詰がしっかりできるかなど。また、長いあいだ読者の目に耐えてきた古典にも一読の価値があります。『将棋は歩から』(加藤治郎、東京書店)はすべての棋力の人が読んで参考になるでしょう。天野宗歩や升田幸三といった天才の棋譜もしかり。
なぜこんなことを書いたかと言うと、『将棋・ひと目の端攻め』(マイナビ)を書店で見つけて、いままで読んだつもりになっていたことに気づいたからです。このシリーズ、編集した人はよほどの力量…(このくらいにしときましょうか笑)
【最新】将棋読み物
藤井聡太ブームも息が長いですね。
デビュー戦から29連勝という空前絶後の記録を打ち立てたのがちょうど1年前のこと。
その後もこの聡太ブームにじわじわとファン層がついているおかげで、じっくりとした取材を重ねた読み物が出版され始めています。
ちなみに現在は都成ー藤井戦の真っ最中。将棋チャンネルでしずかに中継をみながら本を紹介してきます。
1.野澤亘伸『師弟』(光文社)
その副題「棋士たち魂の伝承」が示すとおり、師匠が弟子にかける思いを数々のエピソードとともに描写したノンフィクション。谷川ー都成、森下ー増田、石田ー佐々木勇ら6組12人の棋士を個別に取材。巻末には羽生2冠の単独インタビューも。
棋士が棋士を思う中で生まれるちいさなエピソードたちは関係者などいわゆる中の人以外には知られづらい面がある。石田和雄九段が弟子の勝利を祈る場所、森下卓九段による自身への評価を聞いた時の増田五段の反応、奨励会でくすぶる都成少年におくった谷川九段の手紙の文面...
各章40ページ程度でよみやすく、おすすめです。
弦巻勝『棋士 羽生善治』(双葉社)以来、ひさびさに出た羽生先生の写真集。
今回は岡本さんの腕による写真を多く収録。棋士人生の節目ごとに章立てし、有名なプロデビュー戦の宮田利八段の写真も掲載。全編を通じてカラーとモノクロの写真を織り交ぜた豪華な仕上げで240ページとボリュームもありながらお手頃価格。羽生先生の名言も各ページに載っており、人生のモチベーターとしても手元においておきたい一冊。
かつて奨励会に在籍しながら退会し、現在は小説家である著者が、奨励会の仕組みや苦労を実体験をもとに語る。制度に関しての説明は当然とはいえありきたりだが、関西奨励会という沼でもがき苦しむ仲間、そして(他人の目からすれば)颯爽と駆け抜けていった後輩棋士の様子が生々しい。
勉強法に関する記述に富み、おすすめ棋書の紹介も各勉強法ごとに数冊あるのが読者に優しい。結局は24で実戦を積むのが大事なのだと痛感させられた。
参考図書として天野貴元『オール・イン』(宝島社)。
3.『証言 藤井聡太』宝島社
2017年8月に刊行された別冊宝島『藤井聡太 新たなる伝説』を書籍化したもの。書籍化に際してはカットされている部分もあるが、その後おこなわれた詰将棋解答選手権に関する記述も加筆されており、谷川九段、浦野七段による対談も興味深い。
類似書に『藤井聡太語録』(ダイアプレス)があるが、こちらは本当に名言と思しきフレーズを簡単に紹介しただけの本だった。また、松本博文『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社)はタイトルとは異なり、将棋電王戦に関する記述がメインの本なので内容を確認してから買われることをおすすめします。
かずかずの棋士を輩出した名伯楽が語る棋士論。板谷四郎・進先生から受け継がれる東海将棋界でのエピソードから、地域と将棋両方に対する愛が伝わってくる。
今年3月に出版。将棋の森という将棋道場を立ち上げて指導に当たる著者による、将棋と教育を絡めたエッセイ本。内容はタイトルから推し量られるところだが、頭の善し悪しだけではなくマナーなどの関連事項を伸ばすことにも言及する。普段から現場で子どもを見ている筆者ならではの目線がおもしろい。個人的には、棋士に優柔不断はいないんだという記述が妙に腑に落ちた。
6.後藤元気『心震わす将棋の名対局』(大和書房)
こちらは以前、6月の新刊紹介にてお伝えしたので再掲します。
観戦記者の後藤氏の作品を集めた選集。様々なエピソードとともに棋譜を鑑賞することにより、単なる符号の羅列としての棋譜とは異なり、より深い次元で対局を味わうことができます。
羽生二冠や佐藤康九段らトップ棋士はもちろんのこと、神谷八段や畠山成八段など、普段あまり棋譜が出てこないベテラン棋士の闘いと人間味あふれるエピソードも面白いです。
中盤の大事な局面で手の解説がなかったりするのは良し悪しですが、総じてお買い得な一冊と思います。
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それでは皆さん、快適な読む将ライフを!