【最新】将棋読み物
藤井聡太ブームも息が長いですね。
デビュー戦から29連勝という空前絶後の記録を打ち立てたのがちょうど1年前のこと。
その後もこの聡太ブームにじわじわとファン層がついているおかげで、じっくりとした取材を重ねた読み物が出版され始めています。
ちなみに現在は都成ー藤井戦の真っ最中。将棋チャンネルでしずかに中継をみながら本を紹介してきます。
1.野澤亘伸『師弟』(光文社)
その副題「棋士たち魂の伝承」が示すとおり、師匠が弟子にかける思いを数々のエピソードとともに描写したノンフィクション。谷川ー都成、森下ー増田、石田ー佐々木勇ら6組12人の棋士を個別に取材。巻末には羽生2冠の単独インタビューも。
棋士が棋士を思う中で生まれるちいさなエピソードたちは関係者などいわゆる中の人以外には知られづらい面がある。石田和雄九段が弟子の勝利を祈る場所、森下卓九段による自身への評価を聞いた時の増田五段の反応、奨励会でくすぶる都成少年におくった谷川九段の手紙の文面...
各章40ページ程度でよみやすく、おすすめです。
弦巻勝『棋士 羽生善治』(双葉社)以来、ひさびさに出た羽生先生の写真集。
今回は岡本さんの腕による写真を多く収録。棋士人生の節目ごとに章立てし、有名なプロデビュー戦の宮田利八段の写真も掲載。全編を通じてカラーとモノクロの写真を織り交ぜた豪華な仕上げで240ページとボリュームもありながらお手頃価格。羽生先生の名言も各ページに載っており、人生のモチベーターとしても手元においておきたい一冊。
かつて奨励会に在籍しながら退会し、現在は小説家である著者が、奨励会の仕組みや苦労を実体験をもとに語る。制度に関しての説明は当然とはいえありきたりだが、関西奨励会という沼でもがき苦しむ仲間、そして(他人の目からすれば)颯爽と駆け抜けていった後輩棋士の様子が生々しい。
勉強法に関する記述に富み、おすすめ棋書の紹介も各勉強法ごとに数冊あるのが読者に優しい。結局は24で実戦を積むのが大事なのだと痛感させられた。
参考図書として天野貴元『オール・イン』(宝島社)。
3.『証言 藤井聡太』宝島社
2017年8月に刊行された別冊宝島『藤井聡太 新たなる伝説』を書籍化したもの。書籍化に際してはカットされている部分もあるが、その後おこなわれた詰将棋解答選手権に関する記述も加筆されており、谷川九段、浦野七段による対談も興味深い。
類似書に『藤井聡太語録』(ダイアプレス)があるが、こちらは本当に名言と思しきフレーズを簡単に紹介しただけの本だった。また、松本博文『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社)はタイトルとは異なり、将棋電王戦に関する記述がメインの本なので内容を確認してから買われることをおすすめします。
かずかずの棋士を輩出した名伯楽が語る棋士論。板谷四郎・進先生から受け継がれる東海将棋界でのエピソードから、地域と将棋両方に対する愛が伝わってくる。
今年3月に出版。将棋の森という将棋道場を立ち上げて指導に当たる著者による、将棋と教育を絡めたエッセイ本。内容はタイトルから推し量られるところだが、頭の善し悪しだけではなくマナーなどの関連事項を伸ばすことにも言及する。普段から現場で子どもを見ている筆者ならではの目線がおもしろい。個人的には、棋士に優柔不断はいないんだという記述が妙に腑に落ちた。
6.後藤元気『心震わす将棋の名対局』(大和書房)
こちらは以前、6月の新刊紹介にてお伝えしたので再掲します。
観戦記者の後藤氏の作品を集めた選集。様々なエピソードとともに棋譜を鑑賞することにより、単なる符号の羅列としての棋譜とは異なり、より深い次元で対局を味わうことができます。
羽生二冠や佐藤康九段らトップ棋士はもちろんのこと、神谷八段や畠山成八段など、普段あまり棋譜が出てこないベテラン棋士の闘いと人間味あふれるエピソードも面白いです。
中盤の大事な局面で手の解説がなかったりするのは良し悪しですが、総じてお買い得な一冊と思います。
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それでは皆さん、快適な読む将ライフを!