暗記の効用
将棋、強くなりたいですね。
将棋の勉強といえば主に以下の5つが浮かぶことと思います。
1詰将棋 2棋譜並べ 3実戦 4定跡 5問題集(手筋・次の一手)
皆さんはどの勉強法が好きでしょうか。
私は棋譜並べが好きです。特に名局集シリーズは一つの戦型に絞って棋譜を見ることができるので素敵ですね。
それから升田幸三名局集。ともかく序盤感覚の鋭敏さが尋常ではありません。場合によっては終盤(勝負)にたいする執着がゼロなのではないかと思わせる敗局もあるのですが、それだけに九段の負けた将棋からも学ぶところが多いです。
(他にも、次の一手勉強法も好きではあるのですが、たくさんの書籍をこなしていくなかで、なかなかこれ!といういい教材に巡り合えていないのが現状です。)
皆さんの中では、実戦が好きだよという方が多いかもしれません。
ツイッターに流れる将棋ツイートを見ていても、この局面から勝った!負けた!というツイートが目立つ気がします。そんな状況があるだけに、「今日は詰将棋本を5ページ進めました」というツイートを見かけるとほっこりと応援したくなります。
そうです。詰将棋は裏切らないのです。
今回この記事で何が言いたいかというと、地味な勉強法ほど地力がつくかもしれないよということです。
地味な勉強法とはつまり(1)詰将棋と(2)暗記ですね。
(1)詰将棋の効用はいうまでもないでしょう。
実戦では詰将棋のような作ったような手順は出ないのだからやっても意味ないよ、という人は、詰将棋が手を読むという基本動作の訓練であることを見過ごしています(あるいはこれは脳内盤駒の動きを滑らかにする潤滑油を差す作業ともいえる)。
特に、脳内詰将棋をやると頭がすっきりします。
身近に理解ある友達や家族がいるかたは、ぜひ脳内詰将棋の問題を出してもらいましょう。簡単なものでかまいません。地道に脳内盤を醸成していきましょう。私もこれで読みの力がぐっと上がった経験があります。
余談ですが、阿部光瑠六段はPCソフトに搭載されていた目隠し将棋(駒が白地になる)を指して上達した経験があるそうです。参考まで。
つづいて(2)暗記は、とくに定跡の手順を覚えるときに有用なことが多いと思います。教科書に書いてあることに疑問を持てる人は、そもそも教科書を熟読し理解しているものです。
数年前の将棋世界に「ぼくはこうして強くなった」という短期連載があり、その2015年9月号は広瀬章人八段が登場しています。その中に暗記に関する記述がありましたので紹介します。
両親にはうまくコントロールされていたと思います。父に言われて、『羽生の頭脳・全10巻』をノートに書き写しました。理屈を理解したできたわけではありませんが、定石を見よう見まねで覚えました。矢倉をよく指したし、振り飛車に「▲5七銀左急戦」を指していたのは、明らかに『羽生の頭脳』の影響です。 (p88)
何をお手本にしたかといえば、やはり羽生世代の方たちの将棋です。羽生さんや森内さんが指す居飛車の将棋は、序盤からずっと中盤、終盤まで見通している。指し手が線になって初手から最後まで続いている。それを勉強し直しました。考えてみれば、自分の将棋の原点には小学校5年生まで懸命に書き写していた『羽生の頭脳全10巻』の定跡があったはずだし、その原点に戻ったともいえます。(p96)
また、藤井聡太七段が 子供時代に駒落ち定跡を暗唱していたのは有名な話でしょう。
指導に当たった文本力雄さんはインタビューでこう語っています。
「教材は駒落ち定跡書になっているので、その480ページをみんなに覚えてもらういうのが最初で。その次が『羽生の頭脳』という一般戦法になるんですけども。」
「はい、これを八枚落ちから上手香落ちまで。それをね、一区切りずつ並べて覚えてもらって。テストするんです。」
『暁将棋部屋 第二号』p43-44
これによると、藤井七段は幼いころこの暗記課題を1年くらいでクリアしたそうです。
この出典(暁将棋部屋という同人誌)に興味がある方は、こちらからどうぞ。
ということで今回はちょっと将棋をがんばって覚える時期があってもいいんじゃないという意識で書いてみました。
広瀬八段や藤井七段も通った道と知れば、何となくやる気も起きるかもしれませんね。
皆さんも基本をしっかり学び、そこから応用を繰り返して自分の将棋を作っていきましょう!
【1005追記】
鈴木大介九段は少年時代、父上から大内九段の名著『5七銀左戦法』を暗記させられたというエピソードがありましたね。