みずたま将棋ブログ

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中原誠を読む

先日マイナビ出版から、『大山VS中原全局集』という本が出版されました。

 

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十五世名人の大山康晴先生と十六世名人の中原誠先生という、昭和を代表する2人の名棋士がしのぎを削った歴史がそのまま棋譜という形で残されています。

なお本書は1981年に出版された『大山、中原 激闘123番』という本をもとにしていますが、新版は163局を網羅していますから(その後の40局を収録)、旧版しか持っていないという方にもおすすめできる一冊です。

 

最近になって将棋を見始めた方にはなじみのない名前かもしれませんが、中原先生は谷川世代、羽生世代、渡辺世代といったプロ棋士たちの修業時代に大きな影響を与えた棋士です。自然な手を積み重ねて気づいときには優勢になっているその指し回しは本当に自然流ということばがぴったりです。

 

中原誠 - Wikipedia

 

というわけで今回は中原先生に関する書籍を少し紹介します。


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棋譜はネット上で手に入るものもありますが、解説がついているものがやはりおすすめです。

先に案内しておくと、中原先生の実戦集は自戦記が多いのですが、やはり人気棋士だけあって似通った内容で何冊も出ている傾向があります。

よく言えばどれを読んでも失敗がないのですが、アドバイスとしては、複数手にする場合には出版年が離れたものがいいでしょう。個人的に強くお勧めするものには★をつけておきます。

先に紹介した『大山中原』★のほかに...(出版年降順)

 

中原誠名局集』★(マイナビ、2011年) 完全保存版の名局集。PB版も。

『決断の一手!』(日本将棋連盟、2008年) 次の一手集。今世紀の将棋が多い印象。

中原誠の実践名勝負』(東京書店、1999年) 奨励会から現在までの戦い10局を解説。

『自然流 この一手』(1994年)『自然流勝負の一手』(1996年、ともに毎日新聞社) 1992年4月からサンデー毎日誌上に連載された「自然流この一手」をまとめたもの。

中原誠自然流名人戦激闘譜』(池田書店、1987年)

 『中原攻めの実戦集』(永岡書店、1984年)大山先生との対振り飛車戦15局を詳細解説した自戦記

『中原の名局』(ちくま書店、1984年)1冊でなんと4局だけをみっちり解説

『中原自然流実戦集』(永岡書店、1984年) 上記と同じく新書版の実戦集

中原誠名局集』★(筑摩書房、1981年) マイナビ版(2011)とこれさえあればOK

中原誠将棋勝局集』(講談社、1976年) 文庫版もあります

中原誠実戦集1~3』★(大泉書店、1973年) デビューから名人獲得までの代表譜を自戦記で

 

ちょっと長くなりましたね。本当は『将棋脳』のような読み物、『矢倉で戦おう』のような戦術書、『自然流詰将棋200』200のような詰将棋本もあるのですが、それはまたの機会に扱いましょう。ちなみに、将棋世界での記事として2003年9月号「棋士たちの真情」、2008年1月号「特集 十六世名人中原誠」、2010年2月号「突き抜ける!現代将棋」(勝又)の「中原誠、相掛かりを語る」、2009年7月号「中原誠十六世名人に聞く16の質問」などがあり、どれも貴重な特集記事・インタビューとなっています。

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ちなみに個人的には1990年の第48期名人戦で谷川先生から名人を奪取したあたりの棋風転換期の棋譜が好みです。このあたりはマイナビ版の名局集か、谷川浩司全集(今度プレミアムブックス版で復刊されますね)に詳しい記述があります。

 

さて今回は割ととりとめのない話になってしまったのですが、最後に将棋世界2016年7月号の記事を紹介しておきたいと思います。

 

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今号と次の8月号は、渡辺棋王が中原先生の自宅を訪問して対談を行うという豪華な内容でした。渡辺先生は自然流の指し回しに強く影響を受けたことを公言されています。

 

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手にしてるのは「実戦集」ですね笑

 

この対談のなかの重要ポイントは、ここです。 

(引用)

―この時代の将棋の、どんなところを学ぼうと思ったのですか。

渡辺 僕はいま32歳だから、中原先生とは40歳ほど年が違うんですけれど、自分たちが子どもの頃はもう、居飛車穴熊が普通に指されていれ、矢倉でも何でも玉を固めてガーンと攻める将棋が主流になっていました。専門的な話になりますが、玉を固めると仕掛けるタイミングがどうしても早くなるんですね。早く攻めてガチャガチャやっていれば、相手が間違えてくれる。そういう将棋になりやすいし、自分もプロになってからずっとそんな指し方をしていたんです。でも、羽生さんが相手だと、切らされて負けてしまうことが多くて。なんとなく行き詰まりを感じて中原先生の将棋を参考にしようと思ったんです。昭和40~50年代の将棋は、そんなに慌てて攻めないんですよ。じっくり相手を引きつけてから攻める。そのタイミングを勉強したかった。

 

(引用おわり)

 

とまあ、現代(厳密には2016年当時)までの穴熊全盛期の風潮に行き詰まりを感じた棋王の心情が表れています。

 

穴熊全盛から玉の薄い力戦の時代になりつつある今は、中原将棋が再び脚光を浴びるときなのかもしれませんね。

 

 続きはまた今度。