詰将棋のルールについて
何人かから立て続けに聞かれたので、ここにまとめておきます。
手元にあった原田泰夫『最強の詰将棋200題』のルール紹介を例に取りますが、どの本でもルールの説明はほぼ同じでしょう。
1. 攻め方は王手の連続で玉を詰めること。
2. 攻め方は最短手順で玉を詰めること。
3. 玉方は最長手順を選ぶこと。
4. 玉方は盤上の駒と攻め方の持駒以外の駒を使ってよい。
5. 攻め方は持駒と、王手をしながら取った駒も使ってよい。
6. 玉方は逃げ手順で、同手数の二つの手順がある場合、攻め方に駒を与えない方を正解とする。
なんだか難しそうですね。要約すると、1. 王手の連続で玉を詰ますこと、2. どちらもなるべく相手に苦労をかける手順を正解手順とします、というかんじでしょうか。
これは▲2一金△1二玉▲1一金△2二玉▲2一飛成の5手詰。
▲2一金△3二玉▲3一飛成の3手詰は実戦なら考えられるが、詰将棋の答え方としては不適。もちろん実戦なら▲2一金にて投了もある笑
そもそも詰将棋になぜルールがあるかというと、もちろん唯一解が定まるのが作品としてエレガントというのもありますし、雑誌懸賞などで答え合わせが必要な際に解がいくつもあっては困るということが大きいでしょう。
詰将棋において一番大事なことは、「『玉方のいかなる応手に対しても詰み手順があるよ』という攻め方Aが少なくとも一つは存在する」ということでしょう。
攻め方Aはすなわち正解手順のことですが、この手順を追っている限り玉方は詰みを逃れることはできないということです。
こうした攻め方Aが存在しないなら、その詰将棋は不詰といって問題として成立しないということになります(作者の責任)。
こちらは例題。
攻め方1 ▲53銀a△51玉▲52金(詰み)
→一見、詰みにみえますが、これは2手目に玉が△31玉と逃げれば不詰ですので、2手目の応手が誤り。1手目の攻め方も誤解となります。
攻め方2 ▲43銀
→この初手は正解です。玉方の逃げ方3つ(同玉などの反則手は無視)に対して頭金の詰みを用意しています。
詰め上がりの一例(初手から▲4三銀△51玉▲5二金)
詰み上がった結果、攻め方の持ち駒には何も残りませんでした。これは詰将棋作家さんが苦心するところで、持駒に何もない詰め上がりはきれいですね。ただしこのことは解く側のルールとしては関係ありません。玉方がベストを尽くしても詰め上がりの攻め方に駒が余るなら、それは作る側の責任です。第一、実戦ではそんなこと気にしませんよね。
また、この手順の中で2手目の応手が3 つありますね。このことは気にしなくて構いません。どの2手目に対しても必ず詰みがあるとわかることのほうが重要です。3手詰だとわかりづらいですが、これが11手詰とか23手詰とか長い詰将棋になったときに、詰み手順最後の2手を完全に限定することがさすがにできないことが多いです。複数ある手順の中からどれか1つを回答すればいいでしょう。
昨日のおやすみ詰将棋はこんな感じでした。
正解は、▲2三金△同金▲3二飛成△2二金▲2三歩成までの5手詰。
3手目が一間竜と呼ばれる形ですね。
4手目はなにか合駒を持ち出してくる可能性もありますが、このばあいは▲2三歩成として金が取られての詰めあがりとなります。
(ここから▲2三歩成で金が余る)
詰将棋を解く観点からは本質的な点とは言えませんが、わざわざ攻め方に駒を取らせてフィニッシュというのもしゃくですから、取られそうな金を逃げながらの合駒が(解を限定する必要があるときの)正解となります。実戦なら何を合駒してもいいでしょう。
それから無駄合い(無駄な合駒)のことが書いていなかったですね。
飛び道具で王手をされてそれに対して合い駒を打つとします。その駒が取られてその後も出番なく玉が詰まされるなら、その合駒は犬死というか、無駄だったことになりますね。こうした合駒は打たないお約束です。美しくないですしね。
この図はこのままで詰みです。
ただし実戦(特にウォーズの3分切れ負け)では6回合駒をすることで時間が稼げるでしょう笑
さて、これまでのことを踏まえて次の問題を考えてみてください。
いま作ったのですが、なるべくルール上のことを考えられるようにしました。
話が長くなったので続きは次回。
この問題の作意は9手詰です。
詰ませ方がわからなかったら前問をヒントにしてください。
将棋上達法について
スマホは便利ですね。
ここ数年とかに限った話ではないですが、道を歩けば、イヤホンで音楽を聴いたり歩きスマホをしたりしている人に出合わないほうが珍しいです。今日私は電車の中で本を読んでいる人を見かけたのですが、本当に珍しいものを見た気がしました。
そうした現代の日本がどうこうみたいな話は置いといて、将棋の話。
強くなるには本を読んだりネットを見たりして情報を仕入れるのも大事だけど、(1)自分で(将棋を)考える時間、そして、(2)自分のなかでその情報が消化できているか、自分がいま何を考え、悩んでいるかを思いやる時間も大事だよということを書いておきたいと思いました。具体的には、スマホの電源を切って自分だけの時間を持とうということです。
これでもう気づいてしまった人は、もうこの続きを読まなくていいでしょう。
いくつかの言説を引用します。
私は、今の時代は、いろいろなことが便利になり、近道が非常に増えた時代だと思っている。何かをやろうと思ったときに、さまざまな情報があり、安易な道、やさしい道が目の前に数多くある。楽に進める環境も充実している。昔は、遠い、一本の道しかなかった。そのため、選択の余地なくその道を歩んだけれど、今は近道が他にたくさんできている。わざわざ一番遠い道を選んで行くのは損だという思いにかられる。その横では近道で通り過ぎてゆく人がたくさんいるのだから自分自身で、「何をやっているのだ」と思うこともあるだろう。逆に、昔よりも選択が難しい時代なのかもしれない。しかし、遠回りをすると目標に到達するのに時間はかかるだろうが、歩みの過程で思わぬ発見や出会いがあったりする。将棋でも、直接対局に関係ないように思えることが、あとになってプラスになったということはいろいろある。対局で、道の場面に遭遇したときには、直接的な知識や経験以外のものが役に立ったりするのだ。
羽生善治『決断力』(角川新書、p155-156)
羽生九段が著作やインタビューの中で、たびたび「意図的に頭を空っぽにする時間を設けている」という趣旨のことをおっしゃっていることも有名ですね。羽生先生に関しては私は以下のツイートが好きです。
研究中の駒音、
— 🐰羽生理恵🐩🐶🐕 (@usaginoheso) September 29, 2016
木の温もりの駒の音はとても綺麗。
澄んでいます。玲瓏たる駒音。 pic.twitter.com/CjE6bVFpjG
話は変わって、とあるアマ強豪の方が将棋ブログにおいて、上達法について書かれていたのを目にしました。以来、その文面は悩んだ時に何度も読み返すようになりました。ツイッターで何度か紹介しているので知っている方も多いでしょう。
読みの技法 番外編 県代表クラスになる為のある一線 | 将棋・序盤のStrategy ~ 矢倉 角換わり 横歩取り 相掛かり 中飛車 四間飛車 三間飛車 向かい飛車 相振り飛車 ~
私のお気に入りのフレーズはこちらです。長くなりますがお付き合いください。
結局、自分の何がいけなかったかというと、
根拠の無いものに振り回されすぎていた、
っていうのが原因だったんですね。根拠の無いもの、っていうのは、
「定跡書に書いてあったから」とか「プロが指したから」という、
根拠がありそうでいて、実は自分の考えが全く入っていないものだったりします。そうじゃなくても、
「根拠の無い自信」とか「根拠の無い自分像」、「根拠の無い将棋像」
こういったものに縛られてしまう事って無いですかね?勉強というのは、将棋そのものの知識を得ると同時に、
自分を知るための道具だったのだと、収束する渦の世界の中で気付いたんですね。
4段に達するために必要だったのは、知識ではなく自立だったという事です。兎角、人間というのは実体の無いものに振り回されるものだと思います。
最近は情報が多すぎて、分かったつもりになってしまう事も多いでしょう。
そこに「虚像の自分」が出来やすく、迷いやすいのではないかと思います。
長い間「上達が出来ない」とお悩みの方には、
自分に素直になってはいかがですか、と言いたい。「やっぱり詰将棋が必要なのかなぁ?」と頭によぎれば詰将棋を解けば良い。
「本当に定跡書の内容を理解してるのかなぁ?」と思えば検証すれば良い。
「実戦不足かなぁ」と思えば実戦を指す機会を多くすれば良い。心が欲しているにもかかわらず、やらないのが人間である事を私は知っています。
でも、つまらない事を考えず、「本当の自分」が欲している事を素直に実行したら良いんです。
つま先立ちしたり、自分に嘘をついたりしても、「本当の自分」が悲しむだけじゃないですか?
こうやって「本当の自分」を大事にする考えをしていくと、
悩みや情報が大量にあっても、結局削ぎ落とされていくものだと分かってきます。
勉強をしている段階では、要らない悩みや情報も沢山まとわりついているのですが、
「本当の自分」を大事にする事で、洗練する事が出来るからです。
(洗練されているだけで、悩みが消える事は無いんですけどね)ですから、周りの人間が出来る事というのは、
出来るだけ確かな情報や知識、環境を与えるところまでだと思うのです。
「本当の自分」を大事に出来るのは、結局自分自身に他ならないからです。
また最近では、とある講師仲間が言ってた言葉にも感心しました。
彼は近くに右四間飛車対策に関する講座を受け持つことになっていたのですが、「最近はずっと右四間(の局面)を見つめています」とのことだったのです。
やはり局面をパソコンに打ち込んでピッポッパ、ではないんですね。強い人ほど将棋と向き合っているという印象を抱きます。そして本当に強い人ほど、1対1で(つまり他者の意見を介さず)将棋と向き合うことを苦としていないので、そうした営みが努力として語られることが極めて少ないのではないでしょうか。
私自身は、これまでそれほど将棋と向き合ってこなかったほうだと思います。唯一、詰将棋は自分なりに取り組んできました(好きだから)。しかし最近はそれも、「それが苦しいと思うならば無理に向き合う必要もないのかな」と思うのです。向き合うのも才能だし、努力するのも才能という面もあるし(だからといって努力を放棄するのはまずい)。
個人的に、コツは瞑想なりなんなり、自分だけの空間にいる時間を1日5分だけでも持つことかなと思います。それも難しければ、毎日シャワーを浴びている時間にちょっと将棋のことを考えるとか(なにも将棋に限った話ではないですが)。
それから、最近は私はできていませんが、将棋プレミアムやAbema、ニコ生でプロの対局の映像を見るのも好きです。これは録画でもいいのですが、昼食休憩以降の午後はとくに難しい局面を一人で考えている人が二人いるという空間になるので、おすすめです。
答えがあるかもわからない局面をうんうんうなって考えるという意味では、道場に行って他人の将棋を検討するのもいいかもしれません。自分より低級の人や同じくらいの棋友がいるなら自分の持っている知識を論理的に順序立てて説明するのもいい勉強法です。
とまあ偉そうにつらつら書いてきたので、落ちをいいます。
それとは別に、強い人はすごい量の努力をしています笑
自分の実体験に基づいた勉強法ですが、まず小学生の頃には、平日は学校があるので5時間ほど、休日は7~8時間将棋に携わります。自分の場合は将棋道場に通うのがメインでした。
中学生になると体力も付いてくるので毎日7~8時間。道場に通う時間は変わらず、増えた分はネット将棋で対局していました。対局数は中学時代で一日10局以上、30局未満で指していました。また詰将棋は解かず、棋譜並べは一日2~3局。当時は今のようなネット環境もなくアナログ的に盤に並べていました。
三段リーグを戦った高校時代には毎日10時間前後の勉強。基本的な勉強内容は変わっていません。詰将棋はやらず、棋譜並べは2~3局。メインは実戦で、やはり10局以上、30局未満。ただし、持ち時間は、日々の勉強時間が増えた分だけ多くなったと思います。
以上が自信を持って紹介できる勉強法です。これをやれば絶対プロ棋士になれます。
【3/7追記】
引用RTで換言いただいで思い出したのですが、棋書を買うときにも、「この本くらいは読んでおかなきゃ」といった自分の理想像に導かれるより、「この間、道場で石田流のあの攻め方に負けて悔しかったからその対策を知りたい」みたいに具体的かつ需要優先な手順で手に入れるといいと思いますよ。
備忘
順位戦のC級1組が終わり、杉本八段と近藤五段が昇級を決めました。
若者が上に行くのは世の常ですが、50歳台で並みいる強豪棋士を抑えて杉本師匠が昇級したには胸を打たれました。
降級にもめげず結果を残す人を見ると、故・米長永世棋聖の著作の一節を思い出します。
さて、順位戦に臨むB級2組の棋士とA級の棋士は、それぞれどういう思いでいるか。
A級の棋士は、「来年もB1に落ちないといいな、絶対、落ちないぞ」と思っている。一方、B級2組の棋士は、「どんなことがあってもB1に上がろう」と考えている。
二人とも同じような将棋を指しているのだが、片方は「B1に行くような不運に見舞われたら、かなわん」という気持ちで頑張っている。もう片方は、B1に上がれる幸運を求めて指しているのである。
こうしてB2からB1へ上がった棋士は、喜びはいっぱいである。将棋の神様はそれを見て、「そんなにここへ来たかったか。そうか、よく来たな」と歓迎してくれる。「居心地はどうだ?」と訊ねると、「最高です。精一杯勉強して、さらに上をめざします。」と答える。神様は、「そうか、頑張れよ」と応援してくれる。もちろん当人も頑張るから、一年後には昇級したり、それが無理でもいい成績を残すことができるのである。
(中略)
同じB級1組という場所に行きながら、「1年間、頑張るぞ」と思いながら将棋を指している者と、「1年間、不幸を背負ってしまった」と思いながら指していく者がいる。その思いの差によって、1年後に出てくる結果は大きく違ってくるのである。
(米長邦雄『不運のすすめ』角川新書 p. 126-127)
将棋に限ったことではないですが、真摯に取り組むことが大切ですね。
当たり前だけれど難しいことです。
短いですが、忘れぬうちにこれを紹介したかったので。
【追記】そうそう、このかんじ。
ついにC2クラスに降級しました。
— 田中寅彦 (@tora_ejison) March 5, 2019
42年と半年かけて平成が終わる年に将棋指しのスタトートに戻りました。
思い返すと、勝っていたのは最初の10年で、私は昭和の棋士だったかも知れません。
しかし物は考えようで、新元号の歳に62歳で新人と同じ立場になれたのだから、藤井聡太目指して一から頑張ろう!
【棋書】2月の新刊
知らないうちに3月になっていたので、2月の新刊紹介をしておきましょう。
★★★★☆
昨年までの横歩取りのブームにいったん落ち着きを取り戻させた青野流。先手の利をいかして積極的に攻めたおす作戦に後手は手を焼いているのが現状です。
青野流のもっとも基本的な変化から、気になる▲7七桂や▲7七角型の変化まで解説しています。著者独特の語り口で引き込みます。
★★★★★(高段者向け)
相居飛車の最新定跡が現在の形に至るまでの変遷を描いた戦術書。
最新戦法の流れを描いた戦術書でありながら、戦法の変遷を描いた歴史書でもある。
上野先生の将棋・序盤完全ガイドが級位者むけの定跡ガイドブックとすれば、こちらはそれの高段者ヴァージョン。
240ページほどの本ですが、さらっと語る変化の裏に膨大な変化が隠れてたりするので、初段の人にもわかりやすいというふうに書き直したら500ページ位になるのでしょうね。
週刊将棋編 将棋「次の一手で覚える」序・中盤の手筋436(マイナビ)
★★★★☆
もはや定番になりつつあるシリーズ。週刊将棋に掲載された次の一手のなかから好作をあつめたもの。今回も勉強になる手筋がいくつも出ていました。
ただし、体系立った知識が身につくわけではないので、初心者のかたは駒別の手筋本(将棋は歩からなど)や戦型別の次の一手本(長岡先生の文庫など)をやるのが先決になるでしょう。
★★★☆☆
こちらも先日出版された3手・5手版の別ヴァージョン。再刊なので前の2冊の本を持っている人はいらないかもしれません。
全部解いた印象として、やや配置が不自然なのが特徴。骨のある作品ということで、実戦で手を読む練習になるかもしれません。
野間俊克 将棋400年史(マイナビ)
★★☆☆☆
将棋が現行の形として制定されてからの400年の歴史を1冊の新書で伝える本。
内容に価値があるとは思うのですが、ほぼ全ページ文字のみで、やや読みづらい印象。また参考文献リストがないのが失点ポイントでした。
羽生善治 二宮清純 歩を「と金」に変える人材活用術(廣済堂新書)
12年前に出された対談本の文庫化。内容はスポーツ寄りだった印象。
井上ねこ 盤上に死を描く 宝島社文庫
ひさびさの将棋ミステリー。積読にしているのでちかぢか読んでみます。
著者の方はツイッターをされていますね。
安藤たかゆき こんなレベルの低い将棋見たことがない! イースト・プレス
Kindleで購入可能なマンガ。筆者の将棋入門にまつわるよもやま話が人気を博しているようです。こちらも著者の方はツイッターをされていますね。
まだ読んでない!
★★★★★
将棋にまつわる短編集。将棋会館の清掃員のおばちゃんや苦労する奨励会員、棋士になりたい女子研修会員などなど、将棋が好きでたまらない人たちの日常を描いています。
個人的には将棋を好きになった子がこども教室にや将棋道場に通ったり、まいにち詰将棋を解いて上達していくあたりの描写で、この世界で仕事をするやりがいのようなものを感じました。
現実世界で将棋を楽しむ(携わる)ひとりひとりにこんな素敵なエピソードがあるんだろうな、と思い至ることができたのが私にとっての財産です。
将棋界への取材もかなりされていたのが好印象。
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今月もがんばりましょう!
0手詰日和
詰将棋ってむずかしいですよね。
一方で、難しい詰将棋をうんうんうなって考え解けたときの快感がたまらないという方は多いでしょう。しかし、それと同時に、ゆるくつきあって楽しめる詰将棋がもっとあってもいいと思うのです。
余談になりますが、最近、初心者の方(一人ではない)と接していて難しいなと感じたのが、「攻め方の駒は余らない」という言葉。
たまに、「攻める方の駒は余らないはずだから、この攻め手順はちがうのかな」というつぶやきを耳にします。それは半分あってて半分間違っているのですが、たとえばこの局面。
これは、▲33桂△11玉▲12歩△同飛▲21金として5手詰です。
2手目に△31玉としても、▲4一角成などで詰みます。(実戦であいてがそうしてきたときにはそのように詰ませてあげればいいわけ。)
詰将棋において「駒が余るから間違い」というフレーズには主語が隠されていて、それはだいたい「玉方の応手が」間違っているせいで詰め方が余裕をもって(あるいは早く)詰ませる手順を答えてしまったという事態のことを指しています。
答えが何通りかあって、しかも持ち駒や攻め駒が余ってもいい実戦の(実戦的な)詰め将棋と異なり、作品としての詰将棋は、答えを1つに特定する必要があります。雑誌の懸賞詰将棋などその顕著な例で、いくつかある詰み形のうちどれを回答しても正解というのでは、採点に時間がかかって仕方ありませんね。
先ほどの図に戻って、攻め方と玉方の両方の手順(すなわち作品全体の手順)を答える懸賞詰将棋などでは、詰将棋のルールにしたがって回答を導きましょう。この例だと初手▲33桂に△11玉のほうが「解答のルールとして」正解ですね。攻め方と玉方が最善を尽くした際に(攻め方は最短で詰まそうとし、玉方はできるだけ長く逃げようとする)、駒が余らない詰めあがりになるように作家さんは心を砕いているのです。
ちょっと余談が長くなりましたが、話題を戻して今回は、あんまり頭を使わずに楽しめる0手詰をいくつか出しておきましょう。「ふんふん、確かに詰んでるねえ」と確かめて鑑賞してあげておいてください。詰んでそうにみえて実は詰んでないみたいなくだらない仕掛けはないので安心してくださいw
1月の新刊
2月の新刊が押し寄せてきたので、遅ればせながら1月の新刊おさらい!
★★★★☆
elmo囲いを解説した本として有名だが、6章あるうちの1章に過ぎない(第6章は実戦編)。そのほかの4章はコーヤン流や石田流組み換えなどの並定跡をまとめたもの。
斬新な新研究というよりかは、よくまとまった教科書のような本。有段向け。
★★★☆☆
玉方持ち駒制限や中段玉作品などで知られる森先生だが、この本はひさびさの王道詰将棋集。その名の通りはじめての詰将棋本としてもおすすめ。初級向け。
★★★★☆
著者が箱庭と好んで呼ぶ、駒数の多くないすっきりした作品集。
既出の作品が多いのが玉に瑕だが、果ファンの人もそうでないひとも必携の一冊。
高段向け。
★★★★☆
先後ゴキ中の最新研究書かつ概観書。先手中飛車対角道不突き型も収録。
ほぼすべての結果図が振り飛車よしなのでリテラシーをもって読む必要がある。
先日の王将戦の変化なども、早めに打ち切られているのが気になる。有段向け。
★★☆☆☆
必至の入門書。必至(必死)ってなに?という方が王手をかけずに相手玉をしばって勝てるようになりますように。初心向け。
『所司和晴「次の一手」で覚える駒落ち定跡コレクション404』(マイナビ)
★★★★★
駒落ちに携わるすべての将棋人におすすめしたいが、定跡を覚えるなんてナウくないダサいメンドクサいと思ってる人にはおすすめできないかも。
佐藤友康『初心者が初段になるための将棋勉強法』(主婦の友社)
★★★☆☆
久しぶりに出た将棋勉強法の本。内容に目新しさはないが、ビジネスの世界に身を置く著者だからこその視点があり、そこは(記述法含め)勉強になった。
★★★★★
羽生先生の半生記。初タイトル獲得から七冠独占までのタイトル連戦の流れがよくわかってためになった。メインの脇役である島九段、村山聖九段がしっかり描写されていた。
★★★★★
研究会仲間の長岡先生が羽生先生のことを豊富なエピソードをまじえて紹介する読み物。一言で要約すると、尊い...。
加藤一二三『ひふみの言葉』(パルコ)
★測定不能
とにかく元気が出ます。時代は修造かひふみんかですね、ほんと。
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記載漏れがあったら言ってくださいね!
筋と形を囲碁から学ぶ
囲碁をやっていると、「こんな教材が将棋にもあるといいな」とか、「この人の棋風を将棋でも見てみたいな」とかいうインスピレーションを得ることがあります。
囲碁には「筋と形」というコロケーションがあって、経験則からこの形が9割方ただしく美しいよということを示しています。
筋と形に従って打つメリットは(1)きれいで再現可能な碁になること、(2)考える・読むエネルギーを省略できることがあるでしょう。
(反面、ゴリゴリの読みの碁には勝てなかったり、読まないといけない例外で失敗することはある)
ちなみに筋の反対は俗手(ぞくしゅ)。この辺の用語は将棋と同じですね。
今回はそんな教材を紹介してみます。
ちょっと数が多くなってしまったので内容の紹介は省きますが、どれも必読書でしょう。将棋に行き詰まりを感じた方は、読んでみてはいかが。
三村智保『筋がよくなる!勝てる!石の形集中講義』(マイナビ)
三村智保『初段突破 楽に勝てる石の形』(NHK出版)
『新ポケット定石100』(日本棋院)
↑これは★★★★★
『初段合格の定石150題』(日本棋院)
郭求真『筋が良くなる基礎詰碁200』(マイナビ)
月刊碁学編『ひと目でわかる「本筋・俗筋」対照表』(マイナビ)
前田陳爾『置碁辞典』誠文堂新光社
牛窪義高『碁の戦術』(マイナビ)
↑これは★★★★★
以上!これぜんぶの将棋バージョン書きたいな~