私の好きな棋譜【Hefeweizen編】
久しぶりに更新します!
以前はnoteのほうも更新していたのですが、つかいやすさ的にはてなに戻ってきてしまいました。また機会があればnoteの方にも戻ってみようかと思います。
さて、今回は突然始まった新コーナー「私の好きな棋譜」です。
Hefeweizenというソフトは将棋倶楽部24に放流されている公認将棋ソフトです。
振り飛車を得意としていて、特に三間飛車(角道の開閉問わず)のさばきが絶品なので、「最近のプロの三間飛車は負けが込んでいて...」とお思いの方は調べてみてください。
今回紹介するのは、今年1月に指された将棋で、相手は2700点台の強豪の方です。
▲振り飛車党強豪
△Hefeweizen
後手がHefe先生です。序盤はよくある展開だったので中盤から行きます。(▲△太字は実戦の進行)
このあたりはよくある感じの先手中飛車対後手超速の展開。
ここから△8六歩▲同 歩 △7三桂 ▲7八金 △6五銀(図)として仕掛けていきました。△8六歩で▲9五角を消してから△6五銀とするのは最近ではプロ棋戦でもおなじみになっていますね。
この△6五銀は、放置しておくと△6六銀▲同角△6九銀▲6八飛△7八銀成▲同飛△8六飛のさばきをみています。先手は▲5九飛 として割り打ちを防ぎますが、それに対しては△7六銀とすり込んでいきます。ついで ▲6八角と角を逃げた手に対し(図)、どのように指すのがいいでしょうか。少し考えてみましょう。
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上図から△8七歩(図)と垂らしたのが垂れ歩の好手。
放置すれば△8八歩成▲同金△6七銀成が厳しいのです。△8七歩に対して先手は▲7七銀として銀交換に持ち込みましたが、以下△同銀不成 ▲同 角 △6四歩(図)として局面が一段落しました。
どちらからも早い攻めはないと見て△6四歩と突いたのも落ち着いた手で、実戦のように次の▲5四歩 △同 歩 ▲同 飛の歩交換に対して △6三金の受けを用意しています。先手が▲5九飛と引いた図からまたHefe先生の攻めが始まります。
上図から、△6五桂 ▲6六角 △8八歩成▲同 角 △5八歩 ▲同 金 △8六飛
▲8七歩 △7六飛 ▲7七桂 △5六歩(図)と進みました。
長手順進めましたが、最初の△6五桂に▲6八角なら△4二銀が遊んでいた角を活用して絶品です。
△8八歩成に▲同金とするのも△6八銀とされる味があるので指しきれないでしょう。仮に8八角に対して△8七歩と叩かれ、▲7七角△8八歩成となった図であったと仮定すると▲同金は違和感しかありません。
そして最後の△5八歩に▲同飛ならやはり△6九銀の割り打ちが厳しい。振り飛車としては自然に受けるならば仕方ない手順が続きます。
実戦は上図から、▲8五銀と打った局面でまた考えてもらいましょう。
△7五飛には▲7六歩で飛が死んでいますが...
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図から、実戦は△7五飛 ▲7六歩 △5七歩成▲7五歩 △5八と ▲同 飛 △5七銀
▲5九飛 △4八銀成 ▲5六飛(図)と進みました。
飛を取らせている間に小駒を駆使して先手玉に迫ります。常人であれば捕獲された飛車を△8五飛として銀と刺し違えたくなるものですが、▲同桂で先手の角が働きだします。なにより、上図を見ると、先手の駒がダンゴ状態になっているのがわかります。居飛車も、こんなにきれいにさばけるものなのですね。のちに△3九金と打って寄せに行くことになるのですが、先手の持ち駒には飛しかなく、これでは受かりません。
ここからの次の一手が決め手でした(ひと目有段)。
終局までの手順は以下に載せますので、興味のある方は並べてみてください。
この新コーナー「私の好きな棋譜」は、反響があれば不定期でまた掲載してみようと思います(笑)
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△4二銀▲6一飛 △3九金 ▲4九銀 △同 金▲6五桂 △8八角成まで74手で後手の勝ち
【総譜】
▲強豪
△Hefeweizen
▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △3四歩 ▲5五歩 △3二銀 ▲5八飛 △5二金右
▲4八玉 △1四歩 ▲1六歩 △4二玉 ▲3八玉 △6二銀 ▲2八玉 △8五歩
▲7七角 △7四歩 ▲3八銀 △3三銀 ▲6八銀 △7三銀 ▲5七銀 △6四銀
▲6六銀 △3二玉 ▲4六歩 △8六歩 ▲同 歩 △7三桂 ▲7八金 △6五銀
▲5九飛 △7六銀 ▲6八角 △8七歩 ▲7七銀 △同銀不成 ▲同 角 △6四歩
▲5四歩 △同 歩 ▲同 飛 △6三金 ▲5九飛 △6五桂 ▲6六角 △8八歩成
▲同 角 △5八歩 ▲同 金 △8六飛 ▲8七歩 △7六飛 ▲7七桂 △5六歩
▲8五銀 △7五飛 ▲7六歩 △5七歩成 ▲7五歩 △5八と ▲同 飛 △5七銀
▲5九飛 △4八銀成 ▲5六飛 △4二銀 ▲6一飛 △3九金 ▲4九銀 △同 金
▲6五桂 △8八角成 まで74手で後手の勝ち
【穴熊の基本】私の穴熊が組めないのはどう考えてもお前らが悪い!
最近の私のブログは実戦譜の紹介が多くなっていますね。
こんな記事を書いてほしい!とかご要望があればぜひお知らせください。
今回は先日指した生徒さんとの指導対局から、居飛車穴熊の組み方について考えてみます。その方との感想戦は時間切れで話しきれないことが多かったので、じゃあせっかくだから皆さんにも読んでもらおうということでここに紹介する次第です。
その生徒さんはいま四枚落ちに取り組んでおられるレベルで、やはり初段を目指す段階にあるようです。強い。最近のテーマが居飛車穴熊の指し方とのこと。
▲生徒さん(上級者)
△みずたま
【初手からの指し手】
▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲7六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二飛 ▲6八玉 △3二銀 ▲7八玉 △6二玉
▲5六歩 △7二玉 ▲5八金右 △8二玉 ▲7七角 △7二銀
▲8八玉 △5二金左 ▲9八香 △4五歩(図)
ここまでの駒組みはなかなかいいですね。
ひとつだけ、居飛車穴熊を目指すときには▲5七銀と上がる手を急いでおきましょう。上の図では角交換を避けて▲6六歩と突く手が形なのですが、そのときに△4六歩と4筋の歩を交換される手を防ぐことができます。
最近の将棋は、この図の形が対振り飛車の居飛車持久戦における基本の構えのようになっています。相手が三間飛車の時などでも同じで、▲9六歩と突いて左美濃にしたり、居飛車穴熊にしたりと選択肢が広いです。この構え、居飛車党なら全員が好きな形です。ご飯一口は行けますね。
【上図からの指し手】
▲5七銀 △9四歩 ▲6六歩 △4三銀 ▲9九玉 △4四銀
(図)
ここが気を付けるべき点の2つ目です。
居飛車穴熊はひとたび組んでしまえば堅いのですが、組むまでに苦労があります。ここで▲8八銀と締まる手の価値は1万円なのですが、すると△3五銀と出られて苦労します。以下▲4八飛には△2四歩▲同歩△2二飛で飛車先を逆襲されます。
ということで△4四銀には▲3六歩と突くことで銀出を防いでおきましょう。
【上図からの指し手】
▲8八銀 △5四歩 ▲7八金 △6四歩 ▲6七金右 △6三金
▲6八銀(図)
先手は5七銀を▲6八銀と引きつけました。松尾流穴熊の完成まであと一歩ですが、そこは相手も理解しています。4筋の守りが弱くなった瞬間を突いてここから△5三銀(下図)と引いてくるのがよくある対応。
ここでは△5五歩も有力で(厳密にはこの図では△3五銀があるのですが)、いずれにしても▲6八銀から▲7九銀右という組み替えは欲張りさんの構想なので、すんなりと振り飛車側には許してもらえないことを覚悟しておきましょう。
【上図からの指し手】
▲7九銀右
実戦はここで▲7九銀右としましたが、これは実は実現することのない理想図でした(理想を描くことはとても大切です)。
実戦はここで後手が穏やかに△7四歩としたので▲6八角と引いて先手十分になりました。厳密に指すなら△4六歩と突いて、振り飛車がすこし指しやすそうです。
居飛車は、上の図でどう指すべきだったでしょうか。
▲5七銀と戻るのは一案ですが、少し悔しすぎます。▲5七金もなくはないですが、形が悪いのでどうか。
将棋の大切な考え方の一つに、「受からないときは受けない」というのがあります。相手が4筋でポイントを挙げる手が受けづらいなら、こちらは別の場所でリードをしに行きましょう。
▲2四歩△同歩▲6五歩(図)と仕掛けるのが居飛車穴熊の常とう手段です。
以下の変化は複雑なので省略しますが、たとえば△7七角成▲同金寄△4六歩▲同歩△同飛▲2四飛(図)とさばきあいになれば穴熊の堅さが十分に生きる展開といえるでしょう。
(1)持久戦で行くと決めたら早めに▲5七銀を上がる
(2)△4四銀には▲3六歩
(3)▲6八銀と引きつける松尾流穴熊は相手の仕掛けを誘発する
(4)受からないときは受けない、別の場所でポイントを挙げる
【初段を目指す】指導対局より
家を片付けていたところ、今年の初めに小学生の生徒と指した指導対局の棋譜を掘り起こしたので、自分が何を考えていたのかを思い出しながら紹介してみます。
私の指導対局を受けたことがない方に向けて、どんな感じの将棋を指しているのかイメージしてもらえたら幸いです。
なお生徒は3級くらいで、初段を目指している子です。
(指導は生徒の習熟度に合わせて行います)
▲生徒(小学2年生)
△みずたま
【初手からの指し手】
▲7六歩 △8四歩 ▲6六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6八銀 △6二銀 ▲5六歩 △4二玉 ▲6七銀 △3二玉
▲8八飛 △5四歩 ▲9六歩 △5二金右 ▲3八銀 △5三銀
▲5八金左(図)
【序盤の感想】
特に悪い手は指していないが、特に理由がない限り玉を囲いに入れる手を優先したい。たとえば▲4八玉と上がる手は▲9六歩よりも優先順位が高い。
【上図からの指し手】
△1四歩 ▲1六歩 △7四歩 ▲4八玉 △6四歩
▲3九玉 △3三角 ▲2八玉 △2二玉 ▲7八銀 △7五歩
▲同 歩 △7二飛(図)
【中盤までの感想】
玉を囲うことができて序盤戦は問題なしだが、図の直前の▲7八銀は問題あり。▲8六歩から逆棒銀のように指したかったとのことだが、角頭の守りがおろそかになってしまった。
【上図からの指し手】
▲8六歩 △7五飛 ▲8五歩 △3二銀 ▲8四歩 △7三桂
▲8三歩成 △8五飛 ▲同 飛 △同 桂 ▲9五角 △6六角
▲8二飛 (図)
【中盤以降の感想】
角頭を攻められる展開になったものの、うまくさばき合いに持ち込んで相手にリードを許さなかった。この後の▲6三歩の垂らしもうまく、互角の終盤戦に入ることができた。
【上図からの指し手】
△9九角成 ▲7三と △9八飛 ▲6三歩△7八飛成
▲6二歩成 △同 銀 ▲同 と △4二金寄 ▲5一と △3一金
▲5二と △同 金 ▲同飛成 △3三馬 ▲5三銀 △6五香
▲4二金 △同 金 ▲同銀不成 △6六馬 ▲4一銀不成△8九龍
▲1五歩 △4九龍(図)
図の△4九龍を▲同銀と取ると△3九銀と打たれて先手もこわいところだが...
【上図からの指し手】
▲3二龍 △1三玉 ▲1四歩 △2四玉 ▲6八角 △5七銀
▲4九銀 △6八銀成 ▲2六飛 △3五玉 ▲3六飛 △4四玉
▲3四飛 △5三玉 ▲5二龍(図) まで85手で先手の勝ち
【全体の感想】
最後は▲6八角と遊び駒を活用することでうまく合駒請求ができた。これで安全に▲4九銀と龍を取ることができ、勝利を確定づけた。最後は華麗な即詰みで文句なし。
▲5八金左と上がるノーマル向かい飛車は仕掛けかたが難しいことに注意。
オジサン攻めを受ける
今日は午前中に時間があったので、御徒町の道場に行って将棋を指してきました。
この道場は11時開店と早いのでなかなか便利です。
最近では都名人戦の予選があったようで(そろそろ終了間近)、そういう日は人の出も多そうです。毎日トーナメントもやっているようですが、私は参加する時間がなかったので野良での対局を2局だけ指して、あとは棋譜並べをしていました。
三段の男性と四段の男性と手合いがついたのですが、後のほうの対局がすこしおもしろく、また反省点もあったので備忘として棋譜を紹介しておきます。
先手:おじさん(四段)
後手:みずたま
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩
▲6八銀 △6二銀▲5六歩 △5四歩
▲6七銀 △4二玉 ▲4八銀 △3二銀
▲5七銀 △3三銀 ▲7八金 △3二玉
▲6九玉 △3一角▲6五歩 △5二金右
▲2六歩 △8五歩 ▲2五歩 △4四歩
▲4六歩 △4三金 ▲5八金(第1図)
出だしこそノーマル振り飛車かなという感じでしたが、さすがは百戦錬磨のおじさん、この雁木の構えを得意にしているようです。ここまで両者ノータイムでした。
【第1図からの指し手】
△6四歩 ▲同 歩 △8六歩
▲同 歩 △6四角 ▲6五歩 △8六角
▲8七歩 △4二角 ▲3六歩 △7四歩
▲4五歩 △同 歩 ▲3七桂(第2図)
後手は手順に角をつかって8筋と6筋の歩を一気に交換できたので不満なしの序盤戦です。場合によっては△8六歩▲同歩△8七歩▲同金△8六角のような攻め筋も見えてきており、一方的に攻められることはなさそうです。
先手のおじさんは▲4五歩とかるく味を付けてから勢いよく桂を跳ねてきました。手つきに迷いが見られません。
ここから私の指した次の手が問題でした。
【第2図からの指し手】
△5三銀▲4五桂 △4四銀右
▲2四歩 △同 銀 ▲4六銀 (第3図)
▲4五桂と跳ねようとしている手に対して△5三銀右と、あえて両取りをかけさせる手はたまに見かける手です。以下▲4五桂△4四銀右▲3三桂成△同桂として、4筋を手厚く構える狙いです。ついつい筋で指してしまいましたが、この場合は3二玉型で玉のコビンが薄いため疑問でした。代えてすなおに△6三銀と上がって攻めを受け止めるのがよかったのですが、実戦的にはこの不安定な玉形を指しこなすのは自信が必要でしょう。実力不足が招いたミスでした。
なおつづく先手の▲2四歩の突き捨ては悪手です。
【第3図からの指し手】
△1四歩▲4四角 △同 金
▲5三銀(第4図)
第3図からじっと△1四歩と突けたのは好手だったようです。▲2五歩に△1三銀が味よく、この数手で後手が持ち直しました。実戦は角切りから図の▲5三銀で先手の攻めが決まっているようですが...
【第4図からの指し手】
△4五金▲4二銀成 △同 飛
▲4五銀 △同 飛 ▲4七歩 △6六歩
(第5図)
第4図からの△4五金で将棋は終わりました。実戦もここでおじさんが固まり、「そんな手があっちゃあね」とつぶやいたのが聞こえました。▲4二銀成と角を取った手に対して△同飛が、4五金にひもをつけて幸便なのです。
以下は差がついてしまったので省略します。
この将棋を通じてつくづく、将棋は基本手筋が大切だなあと感じました。
最後に、武者野勝巳先生の「手筋の達人」(マイナビ出版、2005年)のまえがきから引用します。
「私は田舎の縁台で将棋を覚え楽しんだので、すべての攻防は数の力で決まると考える筋の悪い将棋でした。初めて将棋道場に行ったおり、初段のおじさんにダンスの歩や十字飛車で翻弄され、こんな駒の使い方があるのかと大いに感心したものでした。
(中略)将棋の指し手は、手筋の組み合わせで構成されていると言っても過言ではありません。新定跡を覚え、棋友を相手に使ってみるのも楽しいものですが、妙手筋を覚え、これが使える形へあなた独自の構想を練ることこそ、将棋本来の楽しみ方なのではないでしょうか。」
ちなみに今回紹介した△4五金の手筋は、本書の第65問として紹介されています。興味がある方は是非読んでみてください。
【指導対局振り返り】ねこまど24時間耐久イベント
さる12月26日と27日、「【ねこまど将棋フェスタ】公開オンライン指導対局 真冬の24時間耐久100番勝負!」と銘打った公開オンライン指導対局会が行われました。
このイベントは、計14人の棋士・女流棋士・ねこまど将棋教室講師が協力して1時間×24枠の多面指し指導(2~4面指し)を行うというものです。
イベントの模様はYouTubeにアーカイブとして残っているので興味のある方はご覧ください。
Vol. 1
公開オンライン指導対局 真冬の24時間耐久 100番勝負! Vol.1 2020.12.26 12:00-19:00 - YouTube
Vol. 2
Vol.3
公開オンライン指導対局 真冬の24時間耐久 100番勝負! Vol.3 2020.12.27 2:00-12:00 - YouTube
さて、このイベントで私は27日(日)の午前0時から午前2時の2枠を担当しました。今回はこの中で対局した5人の方との将棋を振り返りながら、思ったことを書いていこうと思います。普段、駒落ちの上手が感想を書き残すことはあまりないと思うので、興味を持ってもらえたら幸いです。
◇1枠目対局開始!(0時20分)◇
参加してくれたのはうしさん(平手)、あかりさん(6枚落ち)、さくらはな。さん(2枚落ち)のお3方。
3人ともいつもお世話になっている顔なじみのメンバーですが、それぞれ三段、初段、5級という実力者ぞろいなので気が抜けないなと思っていました。
まずはあかりさんの将棋から。6枚落ちの1筋攻めの定跡で、完璧な手順で端を突破されました。このような展開になったときに上手としてまず意識するのは、瞬殺されてはいけないなということです。通常のレッスンであればと金や成香の成駒を金銀とどんどん交換させてすぐに「負けました」となってもいいのですが、今回はあくまでイベント。ここまでのプロの先生方の指導対局を見ていても、1局をゆっくり丁寧に指すというコンセプトが主流かなと感じ取りました。
図の△5五歩はそんな考えで指された一手で、ひとまず圧敗をなくしておいてから終局図を頭の中でデザインします。終局後、あかりさんには「もう少し短い手数で勝つつもりで...」といわせてしまいましたが、これは上手が惨めな負け方をしたくないがための勝手に付き合ってもらった格好なのです(笑)許してくださいm(__)m
(普段のレッスンならたとえば△5五歩のところで△6二金▲3二成香△同金▲同龍で投了です)
そんなことを考えているうちに、さくらはな。さんの将棋が佳境に入っていました。
さくらさんは初段に成れるかな?と考えているうちに本当に初段になってしまった方で、これから二段、三段とどんどん上を目指しているというもっぱらの噂ですので、ここはなんとか痛い目に遭わせてあげないとといけません。銀多伝でくることはわかっていたので、金銀を盛り上げずに専守防衛の構えを取りました。
手なりで駒組みを進めていると、図のようになりました。はやくも8筋が受かっていません。ぴえん。この展開、どこかで見たことがあるなと思ったら、夏の「ねこまど将棋フェスタ 公開オンライン指導対局 真夏の12時間耐久50番勝負!」でやられてた記憶がよみがえってきました。上手はたしか北尾先生でしたが、その将棋はさくらさんの完勝だった気が...こわい。
こうなったらしかたないので手筋の△8五同桂で急場をしのぎ、▲同桂△7五歩で角道を止めます。8筋の折衝をそのままに長引いてくれればまあ何とかなるだろうと思っていたのですが、そこで▲5六桂(下図)が痛打でした。
痛すぎる...。△5三銀や△7三銀には▲7五角があり、収拾がつきません。△5五銀も▲7五角が冷静で、4二にいる金の位置の悪さが祟ります。ここでは負けを覚悟しましたが、やはり前局同様すぐにつぶれてしまうのは(下手としてはもちろんうれしいのですが)見せ場に欠けてしまうので避けたいなあと考えていました。今回は平手、2枚落ち、6枚落ちの3局を1時間ということだったので、終局のタイミング的には6枚落ち、2枚落ち、平手の順番にして、かつそれぞれの対局で各1個ずつポイント図を見つけられればいいなと考えながら指していました。多面指しだと終局のタイミングが一緒になってしまうとお客さんに終局図のまま待ちぼうけということになるので、個人的にはそうならないように普段から心がけています。
3局目のうしさんは普段から私もよく将棋を見ている方です。二段を目指す勉強会に参加されているようですが、新宿道場では三段で指しているとのこと。ねこまどの二段は厳しいなあ。将棋は平手で、図のようになりました(うしさんの▲先手)。
ノーマル三間飛車対居飛車急戦の形で、いま9筋の歩を突き合ったところ。局後、うしさんから「振り飛車の展開をやってもらいたかったのでよかった」と言ってもらえました。映像をよく見るとわかるのですが、後手の私は2手目に△8四歩を指そうか迷って結局△3四歩を選んでいます。ここは私の第六感が働きました。
図から、後手は△3五歩▲同歩△1五角(下図)と仕掛けていきました。指導対局の性格上、上手から動いていくのは本意ではないのですが、直前に△9四歩▲9六歩の交換が入っています。この2手は後手「△3五歩行っていいですか?」→先手「どうぞ」という意味のやり取りなので仕掛けに踏み切りました(△5四歩や△1二香も有力)。この2手のやり取りにはうしさんも同意してくれると思います。
さて、そうこうしているうちにあかりさんが上手玉を詰ませてくれました(下図)。
投了図を見ればわかる通り、下手の完勝です。6枚落ちは下手が完勝してくれると上手はうれしいです。例によって上手玉は左辺に大脱走していますが、これはご愛嬌ということで許してもらいましょう。この展開を嫌えば、さらに下図のところで▲4三銀と手厚く打って4~3筋方面への逃げ出しをなくしておく手は有力でした。
あかりさんは最近は忙しくて将棋を指せていないとのことでしたが、ブランクを感じさせない指し回しで勝利。この調子で4枚落ちに挑んでもらえればと思います。
このあたりでさくらはな。さんと将棋が次の局面の迎えました。
ここから9手一組の手筋で上手陣はガタガタになってしまいました。
よかったら実戦の手順を考えてみてください。
【正解】
▲7五金△同金▲同歩△6三玉▲7四歩△同玉▲7五金△6三玉▲7四歩(下図)
このような駒の繰り替えができるのは二枚落ちの手合いではありません(笑)。このような模範的な攻めを見せられてしまっては上手なすすべなしです。さすがにここで投了するわけにもいかないので△8六桂と打って時間繋ぎをしましたが、下手に不利な局面が一回もないまま終局しました。
上手の△8六桂のような手に対する下手のコツとしては、場合によっては7八金を見捨てて攻めてもいいということを感想戦でお話ししました。下手の7五金が上手玉を抑える要の駒であるのに対し、7八金は相手の攻めを防ぐ駒なので攻め合いになった本局では価値の低い駒になっているのですね。振り飛車党がよく使う感覚です。
さくらはな。さんは内容も結果もパーフェクトでした。ぜひ早急に「二段に成れるかな?」を執筆していただきたいと思います。
このあたりで時刻は午前1時。進行的に少し押している感じでした。
うしさんとの将棋は下図のようになっていました。
互角のさばき合いからこのあたりまで接戦という感じでしたが、この局面で▲4七同金としたのが素直すぎ、形勢を損ねたようです。ここでは▲5八金寄と陣形を立て直しておけばまだまだチャンスのある展開でした。
うしさんは中盤で素直すぎる手が出てしまうことがありますが、序中盤の研究量は誰にも負けないと思うのでこの調子で四段、五段を目指してもらえればと思います。
※追記※
うしさんの中盤の▲1六歩(打った手)は好手でした。青嶋先生も見えなかったと絶賛しておられましたね!
※追記終わり※
◇2枠目対局開始!(午前1時15分)◇
ここから2時間目です。2面指しで、お相手はこういちさん(平手)と塩出さん(飛車落ち)。
塩出さんはいつも棋士や女流棋士の先生方と飛車落ちで対局されている様子をよく拝見しています。定跡形を勉強されていることがわかっていたので、上手△3三桂型の定跡に組んで様子を見ました。
角交換から△4四歩と打たれた図で、▲4四同銀!と捨てたのが強手。△同銀直に▲5六桂で攻めがつながりました。上手はできることなら銀を逃げたいのですが、△3三銀には▲4一飛成となってさすがにこれは持ちこたえられません。歩切れも痛く、下手好調の展開です。
基本的に駒落ちの上手は、手数が長引けばいいなと願っています。その方が上手の好きな形、技を出しやすい形に誘導しやすいからで、長引けば下手のミスも出やすいということもあります。なので、このように一気に決戦に来られると、多少の無理攻めでも(駒が少ない上手は受からないことも多い)上手は非常に嫌だなと感じていると思います。飛車落ちに限らず、駒落ちの下手を持たれる方は速攻を心掛けてみるといいでしょう。
少し進んで次図。
△6二金と引くことで▲5二とを防いで我慢した上手に対して、ここで塩出さんの決断力の良さが出ました。ここから、▲3八金△同馬▲4四飛!△同銀▲5二と!(下図)
派手な技の連続で、これが決め手になりました。多少駒損してでも上手玉に迫るという感覚が絶妙です。最後の▲5二とも、△同金に▲6四桂を見せており好手。手順前後で先に▲6四桂と王手しては△6三玉▲5二と△6四玉で上部に逃げだされてしまいますね。
この後も冷静に寄せた塩出さんの完勝譜となりました。最後の詰みもきれいだったので興味のある方は見てみてください。塩出さんはコツコツ堅実に努力して上達されている印象なので、2021年もこのままいけば角落ちにすすまれていることでしょう。
今回はみなさんお強くて手合い違いが多く、上手は泣いています(´;ω;`)
最後に残ったのがこういちさん(▲先手)との平手の将棋。
風の噂に、こういちさんは嬉野流を好まれていると聞いていたので初手▲7六歩には驚きました。MCまるやまによると、最近は本筋の将棋に回帰しているようで、それはそれでうれしいニュースでした(笑)
図から▲7八銀と引いたのを見て、まだ体の中に嬉野流の名残が残っているのかなと思いました。代えて▲3三角成△同桂▲7七桂と、駒が前に出ていくのが個人的にはおすすめです。
この将棋は終盤戦が見ものでした。一手争いの攻め合いになり、いま後手が跳ねた△4五桂は先手玉に対する詰めろでした。実戦はここで▲3三銀不成としたので、△4八角成から先手玉が詰んでしまいました。
上図では、守るなら▲5八歩と打って詰めろを消すのが冷静で、角や銀を渡せない後手は先手玉に有効な詰めろを続けることができません。たとえば、△4八角成▲同金△5九銀の詰めろには▲2二角で勝ちということです。こうなると先手玉は1手で2手の延命に成功したことになり、逆転です。
また、攻めるなら▲2二龍以下の9手詰もありました。これは後手が3三桂を△4五桂と跳ねたことで生じた詰みで、深夜2時の環境ではなかなか厳しいものがあったかもしれません。
こういちさんはいつもねこまどにデザートの差し入れを下さる聖人です。来年もどうぞよろしくお願いいたします。(意味深)
目指せ正統派!
◇おわりに◇
終わってみると感想戦も含めてぴったり2時になりました。
2時間はあっという間で、対局者のほか視聴者の皆さんのコメントや北尾先生、まるやまさん、よーしなさんほかのみなさんのおかげで楽しく過ごすことができました。
対局後はコメンテーターとして深夜の対局を盛り上げてみました。うるさすぎたらすみません。しかし疲労からか、6時ころにはほぼ無言になりましたので静かなのが見たい方はそのあたりからご覧ください(笑)
今回は棋士と女流棋士の先生方、対局者・視聴者・北尾先生はじめねこまどスタッフの皆さんのおかげで盛会となりました。この場を借りてお礼申し上げます。
好評価・チャンネル登録よろしくお願いします!
【日本将棋連盟サイト】みずたま著作集
日本将棋連盟のサイトに掲載された私のコラム記事をここにまとめておきます。
連盟のサイトにも執筆者別まとめページはあるので、ここでは文献リストもつけておきます。
1.
【紹介文献リスト】
・北尾まどか『やさしくてよくわかる!はじめての将棋レッスン』(日本文芸社)
・高橋和『はじめての将棋練習帳 STEP1 駒を取る』(幻冬舎)
・藤井猛『攻めの基本戦略』(NHK出版)
2.
【紹介文献リスト】
・柚木裕子『盤上の向日葵』(中央公論新社)
・瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫)
・大崎善生『聖の青春』(角川文庫)
・白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!』(GA文庫)
3.
【紹介文献リスト】
・本間博『初手から分かる!将棋・序盤のセオリー』(マイナビ)
・羽生善治『羽生の法則3 玉の囲い方、仕掛け』(日本将棋連盟)
・及川拓馬『全戦型対応!囲いの破り方』(マイナビ)
・金子タカシ『美濃崩し200』(浅川書房)
4.
【紹介文献リスト】
・藤井猛『四間飛車を指しこなす本(1)~(3)』(河出書房新社)
・戸辺誠『将棋DVD 攻めて強くなる戸辺流中飛車』(ルーク)
・藤倉勇樹『振り飛車の核心 "さばき"の基本手筋』(マイナビ)
5.
【紹介文献リスト】
・佐藤慎一『将棋・基本戦法まるわかり事典』(マイナビ)
・佐藤慎一『矢倉で勝つための7つの鉄則と16の心得』(マイナビ)
・塚田泰明『角換わり初段の常識』(マイナビ)
6.
【紹介文献リスト】
・『藤井聡太推薦! 将棋が強くなる基本3手詰』(マイナビ、日本将棋連盟)
・本間博『妙手に俗手、駒余りもあり! 実戦詰め筋事典』(マイナビ)
・浦野真彦『詰手筋DVDブック』(ルーク)
・北浜健介『将棋・詰みの基本手筋』(マイナビ)
7.
【紹介文献リスト】
・『将棋・ひと目の手筋』(週刊将棋編、渡辺明監修、マイナビ)
・『格言・用語で覚える居飛車の基本手筋』(神崎健二著、マイナビ)
・『将棋は歩から(上)(中)(下)』(加藤治郎、東京書店)
8.
【紹介文献リスト】
・藤井猛『相振り飛車を指しこなす本(1)~(4)』(浅川書房)
9.
【紹介文献リスト】
・武市三郎・美馬和夫著『奇襲の王様 筋違い角のすべて』(マイナビ)
・飯島栄治著『対振りの秘策 完全版 飯島流引き角戦法』(マイナビ)
・週刊将棋編『完全版 定跡外伝 ~将棋の裏技教えます~』(マイナビ)
10.
【紹介文献リスト】
・青野照市「将棋界の不思議な仕組み プロ棋士という仕事」(創元社)
11.
【紹介商品リスト】
・将棋ウォーズ
・遊んで将棋が強くなる!銀星将棋DX(シルバースタージャパン)
・みんなのどうぶつしょうぎ(シルバースタージャパン)
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2019年の2月に掲載が始まったこのコラムも、思い返せばいろいろな記事を書いてきました。50点以上の商品を紹介したことになります。
最初の1冊はお世話になっている先生の本にしましたが、これは自然なことでした。また、連載中は紹介した本の著者さんにお礼の連絡をいただいたりしたこともありました。ほかにも、自分のあこがれの先生の著書を紹介するときはおこがましいかな...などと無駄に心配する一方で誇らしい気持ちになりました。
ご紹介した棋書は、いつの時代にも使える情報・研究手法を載せているものが多いと思います。とはいえ、時の流れとともに情報が古くなるものもあるかもしれません。棋書の道に終わりはありません。私自身つねに棋書・定跡・観る将と各方面の情報をブラッシュアップしていく気持ちを忘れないようにしたいと思います。
また機会があるときはこのブログでも紹介していきます!
今後ともみずたまをよろしくお願いいたします!
【中盤力強化】プロの感覚を身につける
序盤は定跡を勉強すれば上達します。
終盤は詰将棋をすれば上達します。
しかし、中盤についてはなかなかいい勉強法がないという話はあるあるですね。
中盤の勉強法を確立できれば将棋界にとって大きな進歩という気がします。現時点では「実戦をこなしましょう」でお茶を濁してしまっている感じでしょうか。
先日のレッスンで上記のことを聞かれて、たしかになあと納得しました。
実戦をのぞいて、個人的にはプロの自戦記を読むことがもっとも効率よく勉強できると思います。もちろん、新聞の観戦記でもいいのですが、限られた紙面で、対局のこと以外のことにも触れる必要があるので自戦記のほうがおすすめというわけ。
(1)渡辺明ブログ
こちらは10年以上前からつづく有名人気ブログ。
この中の、「対局」とタグづけられた記事を見ていくと、渡辺先生が指した将棋の簡潔な振り返りが載っています。記事によって序盤中盤終盤どれを扱っているかは異なりますが、おおむね仕掛け以降の中盤から終盤の入口がおおいようです。
渡辺先生の歯切れのいい理論展開が心地よく、勉強になります。
(2)谷川浩司全集
そんな渡辺先生が修業時代によく並べていたというのが谷川先生の全集。
どうりで、「永世竜王への軌跡」も本シリーズの構成と似ているわけです。
谷川先生は対局当時の読み筋を、うっかりを含めて赤裸々に書いてくださるので勉強になります。
(3)関西奨励会好局集
ツイッターでは何度か紹介しているのですが、関西奨励会で指された将棋の中ですぐれた棋譜に関西所属のプロの先生方が棋譜コメントを加えるというもの。
コンピューターの評価値だけでは測れない肌感覚がビシビシ伝わってきます。
相手の手を殺すトッププロの将棋と異なり、自分の狙いを通すストレートな指し手の多い奨励会級位者の棋譜を解説者がやさしくなだめる雰囲気が好きです。おすすめは有森先生のコメント。
とりあえずは以上の3つがおすすめです!